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塗師山本春正作 柳椿蒔絵煮物椀 10客組




本品は、塗師・山本春正(やまもと しゅんしょう/1610–1682)による、結び柳と椿を主題とした蒔絵煮物椀の十客組です。黒漆地に繊細な金蒔絵で柳の枝と椿の花を描き、さらに蓋裏には金銀一対の八重桜をあしらうなど、厳冬から新春への季節のうつろいを、格調高く表現しています。
「結び柳」は、中国の故事に由来する意匠で、「旅立つ友の無事を願い、柳を輪に結んで贈る」という伝承に基づくものです。そこには「必ずまた再び会えるように」「縁が切れぬように」との思いが込められ、江戸時代以降の漆芸にも吉祥文としてたびたび取り入れられてきました。加えて、柳は一度切られても水に挿せば根を張るほどの生命力を持ち、新しい環境に根を張り、力強く生きることへの祈りを象徴します。
対して、椿は冬の寒さの中でなお美しく花を咲かせる常緑樹で、古来より長寿や気高さの象徴とされてきました。「木」に「春」と書く文字の通り、新春を祝う意匠としても親しまれ、重ねて配された八重桜とともに、冬から春にかけての設えにふさわしい構成となっています。
本作を手がけた山本春正(1610–1682)は、江戸前期に活躍した塗師・蒔絵師で、京塗の名工のひとりに数えられます。桃山様式の意匠を受け継ぎつつ、和様の洗練を加えた作風で知られ、貴族や寺社への調度、茶道具などを数多く製作しました。装飾性に富みながらも過剰に流れることのない意匠構成と、緻密な技術に基づく仕事ぶりにより、後代の京蒔絵にも大きな影響を与えたとされています。
本作にも、春正らしい繊細な蒔絵技法と、意匠の節度がよく表れており、静かな中にも祝いの趣を感じさせる格調ある一椀となっています。新年のもてなしや、節目の慶事の設えにふさわしい、気品と願いを宿す一組です。
- 商品名:塗師山本春正作 柳椿蒔絵煮物椀 10客組
- サイズ:直径13.4㎝ 高さ10㎝ 高さ(身)6.4㎝
- 価格:620,000円
2025-06-11 | Posted in items | Comments Closed