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ペルシャ更紗とはー私たちの生活にも身近で、気品あふれる木綿布について

ペルシャ更紗とはどのようなものか

「更紗」とは、「起源をインドに持つ異国情緒あふれる木綿布」として一般的に認知されています。こちらのブログでも、更紗の歴史や模様、世界各地に広がっていった各地の更紗についてご紹介してきました。更紗に関する他の記事については、下記をご参照いただければと思います。

この記事では、現在のイランにあたるエリア伝播した「ペルシャ更紗」に関する基本的な情報をお伝えしたいと思います。

 

インドから渡ってきたペルシャ更紗

インドから渡ってきたペルシャ更紗

(写真出典:写真AC)

まずは、ペルシャ更紗が生まれた背景についてみていきたいと思います。紀元前からペルシャでも更紗が染められていたという説もあるようですが、大々的に作られるようになったのは中世以降と考えられています。そこにはイスラム教が関係しています。

10世紀頃からイスラム勢力が北インドへ侵攻を繰り返したことでイスラム化が促進され、次第にインド全体にイスラム教が浸透していきました。それに伴い、インドとペルシャとの交流も盛んになり、人の行き来も盛んになったとされています。

16世紀前半にインドで最後イスラム系帝国であるムガル王朝が建てられると、東インドの海岸一帯にペルシャの職人たちが渡来するようになり、インド更紗の技術を学んだといわれています。初めはインド国内でペルシャ向けの製品を作っていましたが、やがて本国へその技術を持ち帰り、ペルシャ国内、特にイスファハーンを中心に更紗作りが始まったと考えられています。

そのため、インド更紗とペルシャ更紗は技法が非常によく似ており、その時代以降の更紗はどちらなのか見分けのつかないものも多くあります。職人たちは非常にレベルの高い技術を身につけ、ペルシャ本国で精巧な更紗を作り始めたといわれています。

 

ペルシャ更紗の技法と模様について

ペルシャ更紗は、現地の言葉で「ガラムカール」と呼びます。インドのスパイスで「ガラム・マサラ」というものがありますが、ここでの「ガラム」は”筆”という意味で、「カール」とは”仕事”を指します。現在のペルシャ更紗は、木製ブロックを使用するプリント式のものが主流ですが、以前は筆で手描きをしていたためにこのように呼ばれるようになったようです。

 

木製ブロックを使った木版更紗

木製ブロックを使った木版更紗

(梶古美術で取扱いのあるインド更紗の一部)

現在のペルシャ更紗は、木製ブロックを使用して作られる、いわゆる木版更紗が主流です。木を掘って模様になる部分を突起させて版にしたものを、スタンプの要領で布に擦り付けていく「木版捺染」という技法で作られています。

インド更紗も、古くは手描きの「カラムカリ」と並んでこの技法が用いられてきたとされています。木版捺染は、繰り返し同じ文様を描くことができることが特徴です。全て職人の手作業で作られているペルシャ更紗は、機械プリントにはない温かみを感じられるようです。

 

ペルシャ更紗の模様と、それが示す意味について

「更紗」と一口に言っても、染色方法や描かれる模様は多種多様です。模様には、伝播した各国各地の時代や文化、宗教などが反映されることが多いようです。

ペルシャ更紗に描かれる模様を見てみますと、やはりイスラム文化が反映された模様が多くみられます。「アラベスク」という言葉を聞いたことがある方も多いかもしれませんが、イスラム教のモスク(礼拝堂)の内部装飾にはよくアラベスク文様が施されています。

幾何学模様や聖樹文様、花唐草文様、ペイズリー文様といった文様がアラベスク文様としてよく知られており、無限に広がるパターン模様に、偶像崇拝を禁止しているイスラム教は唯一神アラーの創造を象徴しているのではないか、と考えられています。
ペルシャ更紗にもアラベスク文様が施されることが多く、特に礼拝用の敷布などの用途に使われてきました。

偶像崇拝を禁止しているイスラム教ではありますが、ペルシャ更紗には鳥獣や動物が描かれているものもあり、楽園がイメージされたようなにぎやかな更紗もあるようです。

 

模様に込められた意味や思い

ここで少し、各国の更紗によく描かれる模様について触れたいと思います。模様にはそれぞれ意味や人々の思いが込められていると考えられています。

例えば大樹は、天に向かって高く伸びる姿や、枝を広げた大きな姿、根を張り巡らせるその生態に、「生命力」や「長生き」を象徴していると考えられています。

花や果物には、その華やかさや果実がたわわに実る姿から「豊かで幸せに満ちた生活」という思いが込められているとされています。

動物模様には、民族や地域によって異なる暮らしを垣間見ることができます。また、空を飛ぶ、水中を自由に泳ぐ、長寿、多くの卵を産むなど、人間にはない能力や力を持つ動物に縁起の良い意味を持たせ、身に着けたともいわれています。動物自体を神秘的なものと捉え、神とみなして信仰の対象とすることもあったようです。
動物の中でも多くの地域で用いられているのは鳥のモチーフです。自由に大空を舞うその美しい姿に思いを馳せたのでしょう。

天体模様もあります。古くから人間は太陽や月・星の動きに従って生活をしてきましたが、暦や時間の指標となるそれらもまた、神格化され、信仰の対象となったようです。

人間が生きるのに欠かせない水、食料をいただく山や森、海も人間にとっては畏怖の対象となり、文様化することでその気持ちを表現したと考えられています。穏やかな田園風景や楽園には、豊かな生活を送ることの願いが込められているともいわれています。

 

インテリアとして愛用されるペルシャ更紗

インテリアとして愛用されるペルシャ更紗

(写真出典:写真AC)

ペルシャ更紗は日本にもファンが多い更紗で、身近なところにも使われていることがよくあります。実はそれがペルシャ更紗だとは意識せずに出会っている人もいるかもしれません。

 

日本でも人気のペルシャ更紗製品

日本で取り扱いがされているものとして、テーブルクロスやクッションカバー、ソファーカバーなどがよく見られます。形状も長方形、正方形、ラウンドと様々です。ランチョンマットなどは、初めてアンティークテイストに挑戦してみたい方にも取り入れやすいアイテムですね。また、ペルシャ更紗は枕カバーやベッドカバーなどの寝具にも使われることが多い製品です。

 

ペルシャ更紗の扱い方

ペルシャ更紗は木綿でできているので、基本的に水洗いが可能なものが多いです。フリンジがついているものはそこだけ扱いに注意し、弱めの中性洗剤で洗うことができます。
多少の色落ちはあるものの、インド更紗などに比べると色持ちがいいところも、ペルシャ更紗の扱いやすさの一つです。

一枚で空間を一気に上品なテイストに仕上げてくれるのが、ペルシャ更紗の魅力といえるでしょう。更紗やアンティークテイスト初心者の方も、まずは一点、気軽に日常生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。

 

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【参考サイト】

 

【参考文献】

  • 丸山伸彦・道明三保子監修(2012)『すぐわかる[産地別]染め・織りの見分け方【改訂版】』株式会社東京美術.
  • 熊谷博人(2009)『和更紗文様図譜』株式会社クレオ.
  • 文化学園服飾博物館(2017)『世界の服飾文様図鑑』株式会社河出書房新社.
  • 田中敦子(2015)『更紗 美しいテキスタイルデザインとその染色技法』誠文堂新光社.
2021-03-20 | Posted in | Comments Closed