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掛け軸ってどう使う?種類や掛け方を紹介

皆さんの実家や、おじいちゃんおばあちゃんの家の和室に、なにやら縦長の紙の巻物が吊ってあるのを目にしたことがあるかもしれません。
学校の習字の授業で作ったことがある方もいるかもしれませんね。
あの縦長の巻物を「掛け軸」といいます。

この記事ではそもそも掛け軸とは何なのか、というところから、掛け軸の種類についてお話していきます。

 

そもそも掛け軸とは何?

そもそも、掛け軸とは何でしょうか。
一般的な定義でいえば、書であったり絵を紙や布で表具したものです。
油絵を額縁に入れて飾ったりしますよね、それの日本版とでも思っていただければ、始まりとしてはおおむね正解です。

額縁の場合は壁に掛けたり天井から吊ったりしますが、掛け軸の場合は基本的に設置場所が決まっています。
多くの場合は、「床の間」と呼ばれる、和室の中の一段高い所の壁面に飾ります。
床の間には、掛け軸に合わせて花を生けたりもします。

掛け軸の数え方は一幅(いっぷく)、二幅(にふく)と数えます。
また、二幅セットのものを双幅(そうふく)、対幅(ついふく)と呼び、これも3幅セットや4幅セットと、数が増えると三幅対(さんぷくつい)、四幅対(よんふくつい)と数えていきます。

 

掛け軸にはどんな種類があるの?「書・画・書画」の3種類に大きく分かれる

大きく種類を分けるとするなら、「書」「画」「書画」の三つに分けられるかと思います。

 

「書」とは文字を主体とした掛け軸

「書」というのは、わかりやすく言うと「文字」です。
どんな文字かというと、「消息」と呼ばれるお手紙だったり、お経の「南無阿弥陀仏」だったり、和歌だったり様々です。一文字だけの書も勿論あります。

 

「画」は読みどおり、絵を主体とした掛け軸

「画」というのは読んでそのまま、絵ですね。
水墨画が主ですが、切絵や版画も多く存在します。

 

「書画」は 文字と絵の組み合わせ。「自画自賛」の 由来である「賛」もこのうちの1つ

「書画」というのは先述の二つを組み合わせたもの、例えを挙げるなら、誰かが書いた絵に対して「賛」と呼ばれる、その絵を称える文章が書いてあるものなどがあります。
現代風に言うなら、Twitterの引用RTが近いでしょうか。
自分で絵を描いて自分で賛をつけることもあり、この場合は「自画自賛」と呼ばれます。
聞き覚えがある言葉ではないでしょうか。
慣れ親しんだ言葉でも、そのルーツは案外知らないこともあるということですね。

これら3つのジャンルの中にも、少しお話に出たような「消息」や「和歌」、その他にも「仏画」や「禅画」という風にいろいろジャンルがあるのですが、そのあたりは追々お話ししたいと思います。

 

掛け軸の種類に季節ってあるの?

さて、掛け軸の種類についてお話ししましたが、じゃあ何が書いてあるかというだけで、他は区別がないのか、というとそんなことはありません。
例えば掛け軸にも描かれているモチーフによって季節があり、これがジャンルの一つにもなっています。テーマといってもいいかもしれません。

簡単に言えばかき氷の絵の掛け軸は夏、雪だるまの掛け軸は冬、といった具合ですね。
旭日は1月、ひな人形の絵は3月、桃太郎は5月、菊は9月、という風にその時期にぴったりのものが必ず存在するので、掛け軸を目にすることがあれば季節感にも注目してみてください。

 

掛け軸の鑑賞方法。まずはメインの「本紙」から

ここまででは、掛け軸はどういうものか、そしてその種類をお話してきました。そこで、じゃあ掛け軸ってどうやって見たらいいの?という疑問もあるかと思います。
掛け軸のメインは何といっても「本紙」といわれる部分で、どこにあるかというと、一番目立つ場所、つまり本紙は文字や絵が描いてある場所のことです。
そこを見る以外に何を見るのかというと、表具だったりを見ます。

わかりやすく言うと、本紙に台風の絵が描いてあるとしましょう。その周りの表具、洋画でいう額の部分に太陽がびっしり描いてあったらなんだかちぐはぐに感じますよね。
立派な龍の絵の周りが、かわいいポメラニアンの絵だったらどうでしょう。
「おかしい」「ダサい」「センス無い」と思いませんか?
そういう感想を抱けたあなたは、掛け軸を鑑賞できたといえるでしょう。

 

しっかりした鑑賞のためには、教養が不可欠…?現代人の感覚でも楽しい掛け軸

では、そこからもう一歩踏み込んでもっとしっかり「鑑賞」するにはどうすればいいのでしょうか。
それには教養が不可欠です。この絵を描いたのが誰で、どういう絵なのか。どんな字が書いてあって、なぜそれを書いたか。そういうものを理解して初めて、美術品としての掛け軸鑑賞が叶います。
なんだ、結局しっかり理解しようと思ったら勉強しないとだめなのか、とがっかりされた方もいるかもしれません。
しかし、それではいつまでたっても美術に対するハードルが高いままですね。
そこで今回は、現代人の感覚でも直感的におもしろいと思えるような作品をご紹介したいと思います。

 

まるでマンガのような掛け軸「大津絵」

まずご紹介するのは、大津絵と呼ばれる掛け軸です。

なんだかマンガの絵のようですが、実はとっても歴史のあるもので、「大津絵」の名の通り、滋賀県大津市で名産とされている民族絵画で、江戸時代の初期から存在するものです。
もともとは宗教画として仏様などをモチーフに、信仰の一環として描かれていました。
用途としては東海道を旅する人たちがお土産にしたり、何といっても仏様ですからお守りとして人気があったようです。
また、一説にはキリシタン弾圧に対して、自身が仏教徒である証明に懐に一枚忍ばせていたなんてこともあったそうです。
初期は仏教画ばかりでしたが、時代とともに世俗画も描かれるようになり、お祭りの様子だったり、人生訓や社会風刺など、その画題は実に多くのものが存在します。
そんな大津絵の中からいくつかご紹介したいと思います。

 

「槍持ち奴」

まずは「槍持ち奴」という掛け軸です。

槍持ち奴

なんだか鬼のようなおじさんがいますが、彼は槍持ち奴(やりもちやっこ)という名前のおじさんです。
槍を担いで大名行列の先頭を歩く彼は、大名の偉さを示すために往来を睨み付け、威圧するように練り歩くのが役目です。
大津絵では、そんな威張ったおじさんを面白おかしく風刺しています。しかし、おじさんの威風堂々とした立ち振る舞いは民衆の憧れでもあったようで、大津絵十種というものに選ばれている人気の絵です。
ちなみにこの絵をお守りとして持ち歩く場合、道中安全の効果が得られるとされていたようです。

 

「瓢箪鯰(ひょうたんなまず)」

次は「瓢箪鯰(ひょうたんなまず)」という掛け軸です。

瓢箪鯰

ナマズはとてもぬるぬるした生き物ですが、そんなナマズをひょうたんで押さえつけることができるでしょうか。
きっとできませんね。でも、そんな無理を無理とわからずやってしまう愚かな考えを「猿知恵」といいます。人間なら無理だと割り切って他の方法を試しますが、猿は思いついたまま実行に移すということですね。
しかし、時には猿のように、無理とわかっていても物事に取り組むことが重要なこともあります。この絵はそんな猿の姿勢にあやかって、難しい人間関係だったりであっても「無理だ」と切って捨てず、解決へ導くような「諸事解決」という御利益を持つお守りとして人気でした。
他にも、地震を起こすと言われているナマズと縁を結ぶことで「災害除け」としての効果があったり、漁師さんや魚屋さんの事業繁栄といった効果もあるそうです。

 

ゆるくて可愛い絵がとっても魅力的!仙厓義梵による作品

次にご紹介するのは、仙厓義梵の作品です。

「仙厓さん」の愛称で親しまれる彼は、江戸時代の禅僧、つまりお坊さんです。
今の岐阜県がある美濃国で生まれ、11歳でお坊さんになり、88歳で亡くなります。
そんな彼が遺した作品はそのゆるキャラのような絵のタッチとは裏腹に、とてもためになる内容の教えを孕んでいるものばかりです。
今回はその中から2つご紹介したいと思います。

 

「あくび布袋図」

まずは「あくび布袋図」という絵です。

あくび布袋図

大きく伸びをしてあくびをしているおじさんは七福神の一人でもある布袋様です。
布袋様の左に、何やら文字が書いてありますがその内容は、

釈迦己帰双林 弥勒未出内 宮甚矣吾 衰也不復 夢見周公

と書かれており、意味はざっくりいうと「この世に救いなんてない」ということが皮肉とともに書いてあるのですが、そんなことは自分には関係ないとばかりに大きなあくびをかいている布袋様とのギャップが魅力的な作品です。

 

「指月布袋画賛」

次は「指月布袋画賛」です。

指月布袋画賛

空を指さすおじさんとその横の子供がとてもかわいらしい絵ですね。
この絵はまたまた布袋様が描かれているのですが、何をしているかというと、彼は月を指さしています。
月の丸さを円満な悟りの境地と捉え、そこにたどり着くのは、やはり月への道と同じく困難であるが、それこそが真に求めるべきものだ、と優しく隣の子供に教えているわけです。

ぱっと画を見ただけでも「かわいい!」と楽しめますが、それがどういうものかを知ることでより一層楽しめますね。

 

日本人の生活とともにある掛け軸

いかがだったでしょうか。
ここまで掛け軸についていろいろお話させていただきましたが、掛け軸は決して過去の美術品ではなく、今なお私たちの生活に寄り添い続ける日用品です。

現代でも、様々なアーティストたちが掛け軸を製作しているので、きっとあなたにピッタリな一幅もあるかと思います。
是非探してみてください。

 

【参考文献】

  • 中山喜一朗監修(2016) 『別冊太陽 仙厓 ユーモアあふれる禅のこころ』平凡社
2021-05-12 | Posted in | Comments Closed