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橘屋友七 黒内捻子蒔絵吸物椀 10客組






橘屋友七による黒内捻子蒔絵吸物椀10客組は、江戸末期から明治初期の京都漆芸を代表する逸品である。外側は深みのある黒漆で端正に塗り上げられ、縁には上品な金蒔絵が巡らされている。蓋を開けると、内面には朱・金・銀の三色を用いた大胆な捻子文様が広がり、渦を巻くような動きと華やかさが目を引く。捻子文様は、縞文様の一種であり、縞をねじることで文様に独特の動きと変化を与える技法である。一般に濃淡三本の筋で描かれることが多いが、二本の場合や点を加えるなど、多様なバリエーションが存在する。捻じりの妙によって、単純な縞文様に比べて奥行きやリズムが生まれ、見る者に風車や潮のうねり、涼風など様々なイメージを喚起させる点が特徴である。
この椀の内側では、渦巻き状の捻子文様が放射状に展開し、各所に配された螺旋の意匠がアクセントとなっている。色彩の切り替えも巧みで、朱と金、銀のコントラストが器全体に華やぎと格調をもたらしている。蒔絵の線描は極めて精緻で、漆の艶やかな光沢と相まって、手に取るたびに高揚感を覚える仕上がりとなっている。外側は一見して黒無地に見えるが、縁には唐草風の抽象文が一周し、抑制の効いた金彩装飾が意匠の引き締め役となっている。外観は控えめながら、蓋を開けた瞬間に現れる内面の装飾が、食卓や茶席での演出効果を高める。器としての実用性はもちろん、芸術作品としても高い完成度を誇る。
手がけた橘屋友七は、江戸末期から明治にかけて京都で活躍した漆芸家で、名工・長野横笛の門人として知られている。橘屋はもともと長野横笛が創業した漆器店の屋号で、二代目横笛が隆盛を迎えたのち、早世した三代目に代わって、門弟の友七がその名跡を継承した。友七は蒔絵師としての技量に加え、意匠構成にも優れ、島津家が皇室に献上した屏風や箪笥の蒔絵を担当するなど、当時の京都漆芸界でも確かな地位を築いた。
- 商品名:橘屋友七 黒内捻子蒔絵吸物椀 10客組
- サイズ:直径12.3㎝ 高さ8.5㎝ 高さ(身)5.9㎝
- 価格:250,000円